2018年、一生に一度とも言える試練の年を迎えた。会社の財務的困難も重なるなか、数年ぶりの大型台風と、北海道全域を襲った3日間に及ぶ大停電(史上初のブラックアウト)という事態が重なり、窮地をさらに深めていたなか、更に製造部から悔しい報告が届く。「商品開発がうまく進んでいない」。数多のソーセージやハムの開発を進めてきたものの、ただスパイスや素材を変更するだけではなく、真の「オンリーワン」商品を生み出すことが中々できない現状だった。

夜明け前の闇が深く、寝不足の日々が続く中、弊社の看板商品「ベーコン」に匹敵する、新たな美味しさを秘めたオリジナル製品を生み出すことができないだろうかと、私は一人深く考え続けていた。

弊社で最も人気のある「ベーコン」に匹敵する、あるいはそれを凌駕するような、新鮮で美味しいオリジナル製品を開発できないものかと、心の奥底でひそかに思い描き続けていたのだ。

そんな時、何気なくつけていた民放テレビで、海外在住の外国人女性が日本のカツオ節の魅力に取りつかれ、その製造法を学ぶために日本に修行に訪れるという話題が取り上げられていた。

その時、思わず頭を過ったのは、お客様から聞いたある言葉。「オタクのベーコンは西洋の鰹節ね」。その瞬間、「鰹節って一体どんな工程で作られているんだろう?」という疑問が私の心に湧き上がった。

ネットで調べてみると、鰹節の製造は、高熱で燻煙した後、時にはカビを噴霧して完成させるという工程だった。それは、我々がハムやベーコンを作る手法と似ている。驚きとともに、新たな可能性が頭をよぎった。「もしかして…」

翌日、工場長に対し、「かつお節の製造工程を調べ、ベーコンをさらに加熱後熟成させてみる」という実験を頼んだ。

そして3ヶ月後、私達の手から初めて「ベーコン節」が誕生した。新たな可能性を秘めた製品の誕生は、まさに躍進の瞬間だった。